将棋プログラミング

(将棋に関する)ソフトウェア開発のノウハウ等。

将棋の局面の形勢(勝率)について

ABEMAやニコ生の対局中継では、AI による局面の形勢が評価値や勝率の数値で表示されるが、形勢(勝率)は絶対的な数値ではなく、対局者によって変わる数値である。

このことを知らない人がいると思われるので、説明しておく。

コンピュータ将棋は、一般的に、可能な手を進め、勝ちやすさを数値(評価値)とし、双方が最善を尽くした場合、自分が最も勝ちやすくなると判断した手を選ぶ(MIN-MAX法、アルファベータ法)。

局面の評価値や勝率は、勝ちやすさを数値化したものである。しかし、同じ局面でも、勝ちやすさは、対局者によって変わる。

このことを明確に発表したのを僕が見たのは、10年以上前の鶴岡さん(激指の開発者)のCSA例会での発表である。

極端な例を考える。
先手番の局面で、後手玉には難解な詰みがある。先手玉は簡単な必至である。
この場合、後手玉を詰ませられる場合、先手の勝率は100%である。
しかし、後手玉を詰ませられない場合、先手の勝率は0%に近くなる
(後手が先手玉を詰ませられない場合、先手の勝率は0%にならない)。
勝率は、ほぼ後手玉を詰ませられる確率となる。

序中盤であっても、理論的には、先手の勝ち、後手の勝ち、引き分け(千日手持将棋)のいずれかになる。
したがって、先手後手両者が完全に解明できれば、形勢は、100%、0%、50%(引き分け)のいずれかになる。
現実的には、終盤以外、多くの場合、完全に解明できないので、こうはならない。

このような事を考えると、定跡書の難しさがわかる。
多くの定跡書では、特定の局面までの変化手順を進め、「これにて先手優勢」等、結論付ける。
このときの形勢は、先手優勢といっても、対局者によって変わる。
例えば、平均的なプロ棋士同士では、先手が75%の勝率になるとする。
しかし、アマチュア1級同士では、先手が55%の勝率ということがあり得る。
極端な場合には、後手の勝率が高くなる場合もあり得る。
一般的に、棋力が低くなると、形勢の差は小さくなる(勝率が50%に近くなる)。

なお、対局中継での AI による局面の形勢の表示を無意味と言いたいのではない。
むしろ、とても参考になるので、より多く活用して欲しいと思っている。
形勢の数値は絶対的なものではないことを理解した上で、参考にして欲しい。